強度行動障害とは
強度行動障害とは 自分を叩いたり傷付けたりと本人の健康を損ねる行動(自傷行為)や、他人を叩いたり物を壊すなどの行動(他害行為)、又は叫びながら動きまわったり何時間も泣き出したりなど、周囲の人のくらしに影響を及ぼす行為が著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態のことを言いいます。
そう、つまりは状態なのです。
生まれた時から強度行動障害を持っているわけではありませんが、その状態になる背景には自閉症や知的障害の特性が大きく影響しているのです。この特性が普通の人と違う為、極めて厄介なのは言うまでもありませんが。
転職して3か月が経ち、早くもサービスリーダーを任される事になったのですが、強度行動障害になりやすい30代自閉症の方のサービスリーダーとなってしまいました。成り行きについては前回のブログに載せております。
辿りついた1冊の本対話から始める脱!強度行動障害
サービスリーダーといえどもこの現場は私一人のみ。
みんなを率いる面倒はありません。
ですが、独り故の責任。。重い。
しっかりしなきゃ。
知的障害者への介護はどのようなものなのかも知りませんでしたので、まずは勉強を兼ねて参考書を探しました。
出会った参考書がこちら!
少しでも強度行動障害を抜け出させるヒントを求めて購入しました。
①強度行動障害の背景にあるもの、予防の為の工夫
②強度行動障害の予防
③コミュニケーション支援
強度行動障害の背景にあるもの、予防のための工夫
強度行動障害と呼ばれる行動がみられる人たちは、生まれつき強度行動障害になったわけでもなく、ある日突然強度行動障害となるわけでもありません。ですが、強度行動障害の背景には自閉症の特性、社会的コミュニケーションの困難と常同的反復行動が大きく影響しております。
この2つの特性の根っこには3つの方向性が見られます。
①人付き合いが行動の同期になりにくい事
②好きなものが増えにくいこと
③嫌いなものが増えやすい事
普通の人に例えるならば、
一匹オオカミタイプでかなりこだわりが強く、根に持ちやすい
みたいな感じですかねー。
なので周囲のサポートが無いと社会との共存が難しく、そして対立する事柄に対して強度行動障害に発展していきます。
支援する側としてはこの辺りの難しさをいかに社会と結び付けていくかが課題となります。
その為には…
一、とにかく人手を集める事
親だけで解決するのではなく、公的な機関を利用して訪問介護を受ける、自閉症を理解して接してくれる支援者を増やす事が大事。まずは大人に余裕を持たせ、支援ををする人の気力・体力・時間を確保しましょう。
二、自閉症の方と対話する余力を確保する(特に子ども時代)
幼児期、学齢期においてこどもの身近にいる人にとって、もっとも重要な課題は、あらゆるチャンネルを使って子どもの好きと嫌いを見極めることだと言えるでしょう。どんな感覚の刺激が好きで、嫌いなのか。どんなもの、こと、場所、人が好きになってきているのか、嫌いになってきているのか。どんな活動は自発的にやりたくなって、どんな活動はご褒美が無いとやる気にならないのかなど。このような取り組みは絶え間ない『対話』の確保がとても重要です。
三、『できること』より『やりたくなること』を目指す
好きなもの、こと、場所、人が人生の中でたくさんあることが強度行動障害に対する重要な防御因子となります。『這えば立て、立てば歩めの親心』という古川柳がありますが、このように接してしまうと『出来るけど嫌いになった』という状況は珍しくありません。歯磨きは出来るけど嫌いになった、とかですね。目標とするのであれば、『できること』ではなく『やりたくなること』を設定していきましょう。
四、将来の暮らしをイメージする
青年期、成人期、はたまた親が居なくなったら…、どのような生活の選択肢があり、どんな暮らし方がその子に似合うのか、思い浮かべてみることができるとよいでしょう。このためにはいろいろな先輩たちの暮らし方を見せてもらうこと、先輩の親御さんの話を聞かせてもらうとか、書籍、漫画、映画などさまざまなメディアを通じて将来の暮らし方のイメージを広げると良いでしょう。
強度行動障害の予防
そもそもどうして強度行動障害という状態になるのでしょうか?
周囲の出来事や他者からの働きかけを『理解』することが難しく、また要望や感情や体調を適切に『表出』することが難しいために、適切なコミュニケーション行動が取れない。
他方、不適切な行動を取ることの方が、効果が大きく、しかもすぐに効果が表れ、必要な努力が少なくて済むので、その不適切な行動(問題行動)が学習され、楽に効果が出る故に頻度も程度も増大し、強度行動障害の状態になります。
(問題行動)を繰り返させ、維持・強化をしているのは(問題行動)をやめさせようとしている親・教師・支援者・その他の人たちの対応が原因であることが少なくないと本書は言っております。
はて?やめさせようとしている人たちが原因とはどういうことでしょうか?
障害者の不適切な行動には大きく分けて3パターンありますが、その時の周囲の反応や行動により助長され、結果として強度行動障害が頻繁に伴う状態に発展していきます。
①行動の強化
欲しい物を使用している人を殴る → 欲しい物をもらえる → 人を殴る=欲しい物が手に入るという構図より人を殴る行動が強化されます。
②行動の逃避
嫌な事をしたくなくて大声を上げる → 嫌な事をしなくて済む → 大声をあげる=嫌な事をしなくて済むという構図より逃避の際に大声を上げるようになる。
③ある出来事に誘発されて起きる行動(問題提起行動)
・転ぶ → 痛いから泣く → 結果は変わらないが痛みを和らげてほしい、転ばないようにしてほしいといった『泣く』事によって問題提起をするようになる。
これら他者から見ると望ましくない行動を取ることによって要求が実現してしまう為、周囲が問題行動を助長してしまうと言う事である。ただし③の場合は彼らが周囲に助けを求めている行動ですので、支援者がフォローすることにより(問題行動)に発展しづらくなる傾向にあります。
周囲にそこまで責任ありますか?と疑いたくもなりますが…。
ではどうすればいいのでしょうか?
本書は次のように言っております。
予防策1:先行支援
望ましい行動をすると要求が通る事を提示する(この時にコミュニケーションの障壁が大きく影響する為、絵カードなどの代替コミュニケーションが必要となる)→ 要求を通してあげる → 他者から望まれる行動を取るという行動を強化する。
予防策2:分化強化
問題行動を取っていない時→本人の要求を通すなど、問題行動以外の行動を強化する(他行動分化強化)。お腹が減った時はお願いするんだよと伝え、お願いが出来た時に好物を与えるなどする(代替行動分化強化)。
予防策3:消去
予防策1・2を実行しても問題行動が消えない場合、問題行動を起こしたとしても要求を通さないようにして、問題行動の消去を計る。ただこの場合は、今まで通すことが出来た要求が急に通らなくなることによって問題行動は一時的に増大し、それから徐々に減少していくといった傾向にあります。また、要求が通ったり通らなかったりすると、その問題行動は消去されずに維持されたりします。なので、消去を図る場合はこの2点には特に注意する必要があります。
コミュニケーション支援
彼らは聴覚的なコミュニケーション能力に欠けている側面があり、他者とのコミュニケーションがうまく取れないという社会的障壁を抱えている事が多々見受けられます。なので、他者からみる(問題行動)とは、彼らにとっての問題提起行動であり、コミュニケーションをはじめとした社会的障壁を取り除いてほしいという我々への要請なのです。
本書では、行動障害を予防する為の9つの重要なコミュニケーションがあると言っております。
①欲しいモノやしたい活動を要求する
②手助けを要求する
③休憩を要求する
④受諾(はい)を伝える
⑤拒否(いいえ)を伝える
⑥『待って』と『ダメ』を理解する
⑦指示を理解する
⑧移動・活動の切り替えを理解する
⑨スケジュールを理解する
先ほど述べた予防策1や予防策2を実行する為にも、彼らに習得してほしい必須スキルと言えるでしょう。聴覚的コミュニケーションが苦手な彼らにとって、絵カードなどを使用して視覚的コミュニケーションによる指導が望ましい。PECSやABA、TEACCHなど、絵カードによる具体的なやり方もあるので気になる方は調べて欲しいと思います。
これらの表現や理解のスキルを身に着ける事が、彼らにとっての社会的障壁を減らす事に繋がり、強度行動障害の予防に大きく貢献します。言葉だけに頼らず、諦めずに是非彼らに寄り添ったコミュニケーションで支援してほしい。
本書で紹介されている気になった事
本書では様々な強度行動障害に対峙してきたエピソードがたくさん綴られておりました。自閉症の親として、特別支援学級の教師として、障害児の親という垣根を越えて障害者支援の事業を立ち上げた立場として、医師として、研究員としてなど。さらっとしか載っておりませんでしたが、100時間あれば強度行動障害を改善できるといったコラムや、障害者でありながら重度訪問介護を利用して独り暮らしが出来るようになった話を映画化した『道草』についてはとても興味深いと思いました。
強度行動障害の方に対しての支援における決意
初めての一歩。私は駆け出しの重度知的障害者の支援者として、新たな世界に足を踏み入れました。彼らは私たちの社会で特別な存在であり、異文化交流と言っても過言ではないでしょう。
彼らとのコミュニケーションは言葉だけでは通じづらいので、身振りや表情、絵カードなども視野に入れて視覚的コミュニケーションを心掛けたいです。彼らのニーズを理解し、彼らが伝えたいことを感じ取るように努め、信頼関係を構築しながら自立を促します。
障害があっても人としての尊厳が保たれ、誰もが幸せになれる権利を保有しているはずです。まずは今受け持っている方の支援を通して障害を持つ子とその母の幸せをプロデュース出来るように、さらなる知識を深めながら支援していこうと決心しました。
まずは強度行動障害の改善から!